上肢の病気について
上肢とは肩、腕、手のことを指します。整形外科の症例としては上肢の外傷が非常に多くみられます。上肢の障害の書類としては、骨折・脱臼、腱断裂、靭帯損傷、腱鞘炎、関節の変形、リウマチによる拘縮や関節破壊、末梢神経障害(手のしびれや麻痺)など様々なものがあります。
肩の病気
肩の関節は自由度が大きく、日常生活やスポーツにおいて広範囲に動かすことが多い関節です。そのため、ほかの部位と比べると不安定な関節となっていますが、それを筋肉や腱靭帯、腱、軟部組織などで安定性を保っています。これらの組織が加齢による変性や、日常生活や仕事、スポーツなどでの外傷、オーバーユース(使いすぎ)によって障害されると、様々な症状が現れます。
変形性脊椎症
変形性脊椎症は、椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たす椎間板が、加齢などにより退行変性、弾力が失われてしまうことで発症する疾患です。高齢の方にはよくみられるもので、誰にでも起こり得ます。
軽度の場合はとくに痛みがないことも多く、無症状の場合もありますが、椎間板の変性が進むと首や腰に慢性の痛みや可動域の制限が起こります。さらに筋肉の硬直や足のしびれといった症状も現れます。これは椎間板が変性すると、骨に負荷がかかり続けるなどして、骨棘(ほねのとげ)と呼ばれる突出が形成されることも要因となっています。発症した位置によって、変形性頚椎症、変形性腰椎症などとも呼ばれます。
変形性頚椎症は首の頸椎で発症したもので、頸椎を通る脊髄およびそこから分岐する神経を圧迫することで様々な症状が現れる病気です。分岐する神経の部分が障害されると、肩から指先にかけて肩こりや痛み、しびれ、麻痺などの神経に関わる症状が現れます。脊髄が障害されると、日常生活ではボタンが上手くはめられない、また歩きにくいといった症状が現れる場合があります。
変形性腰椎症は腰部に発症したもので、腰痛や足のしびれ、排尿障害などの神経症状が現れる場合があります。腰椎の内部の脊柱管には脊髄が通っており、さらに馬尾神経と呼ばれる神経が伸びています。これらを圧迫することにより、脊柱管狭窄症という疾患も引き起こされ、歩行困難などもきたす場合があります。
肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)
中高年の方によくみられる肩の痛みは五十肩あるいは四十肩などとして知られていますが、医学的には肩関節周囲炎といいます。特に原因ははっきりとしていませんが、肩関節の骨、軟骨、靱帯や腱などが老化によって硬くなるなどし、肩関節の周囲の組織に炎症や癒着が起きて発症すると考えられています。
症状としては肩が痛くて上がらなくなる、動かさなくてもズキズキと肩や腕が痛んだり、夜間寝ているときに寝返りをしたり肩が下になると痛くて目が覚めるといった症状も現れます。高い所にあるものが取れない、服の脱ぎ着が辛い、洗濯物が干せないなどに日常生活に支障をきたすようになります。
通常、発症当初には強い痛みがありますが、しばらくすると痛みは落ち着いてきます。しかし肩の動きは悪くなり拘縮も残った状態で、肩を動かすと鈍い痛みが感じられます。痛いからと関節を動かさないままでいると、関節が癒着したまま動かなくなってしまいます。痛みや炎症を抑えるための薬物治療を行う場合もありますが、肩関節が固まってしまうことを防ぐため、リハビリテーションを行うことも重要です。
肩腱板断裂
腱板は筋肉の腱が集まって板状になったものです。肩関節の奥には棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋の4つの筋肉による肩腱板があり、肩の回転を調節しています。肩腱板断裂は、加齢や長年の作業等によって瞼板がすり減るように薄くなっていき、一部もしくは全部が断裂するものです。
断裂が一部の場合、軽い痛みの場合もありますが、肩を上げるときに痛む、夜ズキズキと疼くといった症状が見られる場合があります。転倒や重たいものを持つなど肩への急激な負担で完全に断裂してしまうと、強い痛みとともに腕が上がらなくなってしまいます。四十肩・五十肩の症状を訴える患者様では、この肩腱板断裂である例も多くあります。
治療としては、基本的に保存療法を行います。外傷による場合、当初1~2週間は三角巾で吊るなど安静にし、炎症を起こして痛みがある際は、抗炎症薬や鎮痛薬を肩関節内に注射する場合があります。断裂した部分が自然治癒することはありませんが、リハビリテーションによって切れていない残った腱板の筋力訓練をすることで、その機能が活発になり、痛みや動きにくさが改善することが期待できます。
肘の病気
肘の関節は、肩から肘までの上腕骨の末端と、肘から手首までの2本の前腕骨(橈骨と尺骨)の合計3本の骨によって構成され、周囲の軟骨や筋肉、腱によって支えられ安定性と機能性を保っています。これらが、日常生活での外傷や、スポーツなどによって障害されると痛みなどの症状が現れます。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘・ゴルフ肘)
テニスなどラケットを持つスポーツを行う方に多く見られるスポーツ障害のひとつで、ほかにゴルフなどのスポーツでもみられます。さらに包丁を持ち続ける調理に関わる方や、道具を使用する職人の方でも発症する場合があり、通常の家事などでも発症することがあります。また重いものを持つ、片手で物を引っ張る、腕を回したりすることなどでも引き起こされます。
原因としては、上記のような動作によって手首を動かす筋肉の付着部である肘に負担がかかり、痛みが発生するとされています。、安静時には痛みがないことがほとんどですが、ものをつかんで持ち上げる動作、タオルをしぼる動作などをすると、肘の外側から前腕にかけて痛みが生じます。
治療としては、まず原因となるスポーツや作業を控え、安静にするようにします。痛みがある場合は消炎鎮痛薬の湿布や外用薬を用い、肘の外側に局所麻酔薬とステロイドの注射をする場合もあります。このほか手首や指のストレッチをこまめに行って、筋力トレーニングなどのリハビリを行うことも大切です。さらにテニス肘用バンドなどの装具を使用することも有効です。正しいリハビリをすることによって、多くの人は半年ほどで改善しますが、改善しない場合は手術を検討します。
肘内障
いわゆる「腕が抜ける」とか「肘が抜ける」と表現される状態です。腕を引っ張られるなどした際に、肘の靱帯から肘の外側の骨(橈骨頭)がはずれかかることによって起こります。医学的には肘関節の亜脱臼ともいわれます。とくに骨が未発達な5歳以下のお子様に多くみられ、7歳以上になるとほとんどみられなくなります。また左側の肘に多く、女児に起こりやすくなっています。
発症すると腕が内側にやや曲がった状態で下がったままになってしまいます。肘を動かそうとすると痛みが生じます。お子様が腕を垂らした状態で動かそうとしない場合は、肘内障が疑われます。受傷すぐであれば、骨の位置を正しい場所に戻す整復を行うことで、痛みもなくなり、元のように動かせるようになります。ただし一度肘内障を発症したお子様は再発しやすくなっていますので、整復後も腕を引っ張るようなことは避けましょう。
手指の病気
複雑な動きをし、大きく生活に関わる手や指は、指節骨・中手骨・手根骨・橈骨・尺骨の遠位端などの様々な骨と、それぞれの関節によって構成されています。これらに障害が起きると、生活の質が大きく低下してしまいます。手指に障害を引き起こすものには、外傷やスポーツのほか、オーバーユース(使い過ぎ)、加齢、関節リウマチなどの免疫疾患などがあり、多岐にわたっています。また、しびれや痛みは神経に原因がある場合も少なくなく、その場合、頸椎に問題があることなどが考えられます。
腱鞘炎(ドケルバン病・ばね指)
骨と筋肉をつないでいる腱は「腱鞘」と呼ばれるトンネル状のものに包まれています。これは腱が骨から浮き上がるのを防ぎ、力を有効に伝える役割を担っているものです。この腱鞘が摩擦して炎症が引き起こされるのが腱鞘炎です。腱や腱鞘は全身のさまざまな部位にありますが、腱鞘炎は特に動きの多い手首や指に発症することが多くなっています。
腱鞘炎の代表的なもののひとつに、手首の母指(親指)側にある腱鞘に発症する「ドケルバン病」があります。これは親指を使い過ぎることが原因となることから、現代ではスマホやパソコンの操作によって引き起こされることも多くなっています。また何か物を強く握るスポーツをする人や、妊娠・出産後の女性、更年期の女性に多い腱鞘炎ともなっています。
指の腱鞘に発症する「ばね指」と呼ばれる腱鞘炎もよく知られています。病状が進行すると指を伸ばす際に引っかかりが生じ、その引っ掛かりが抜けると「ばね」のように指が勢いよく伸びるため、この名があります。発症原因に女性ホルモンが関係していると考えられとおり、妊娠中や授乳中あるいは更年期の女性に多く見られますが、男性にも発症します。
治療としては、過度に指を使用せず安静にしておくことが重要で、症状が軽い場合は炎症を抑えるステロイド剤を腱鞘内に注射します。ばね指のまま動かさないでいると、関節の拘縮を招いてしまう場合がありますので、早期に治療を開始することが大切です。何度も再発するようであれば、引っかかっている腱鞘を切開する手術を検討します。これは小さな傷口で行うことができるものです。
手根管症候群
手指や手首の屈曲などを担う正中神経と呼ばれる神経が、手首の掌側にある手根管という狭い管の中で圧迫されることにより、人差し指や中指に痛みやしびれが生じる病気です。手の親指から薬指までの4本の指にしびれを感じる場合に、ほぼ手根管症候群が疑われます。
50歳以上の女性に多く発症することが知られており、手根管の腱鞘が女性のホルモンバランスの乱れによりむくんで、正中神経を圧迫することが原因と考えられています。このほか糖尿病や関節リウマチ、甲状腺機能低下症などの疾患、血液透析や手をよく使う作業も発症の要因となり、妊娠や手首の骨折が発症のきっかけとなる場合もあります。
手根管症候群と診断された場合は、消炎鎮痛剤やビタミンB12などの飲み薬、塗り薬、手首へのステロイド剤の注射などの薬物療法を行います。また運動や作業を軽減するようにします。さらに装具による固定で安静を保つようにする場合もあります。難治性のものに関しては、内視鏡による手術を検討します。